ALPS STORY
    ALPS MINI STORY PartW
    思いつき構想第4弾

     『 旅日誌 』
                             池馬 白栂 著


 発車のメロディが鳴り終わり、私の乗った列車はホームを滑り出した。
 私、中里奈津美。22歳。旅行代理店の企画ルームの一員で将来有望。
 世間でいって美人の部類、恵まれた人間であることは確か。
 でも一つだけ問題は「恋人」がいないこと。
 昔っからどうしても「姉のような人」で終ってしまうの。
 そんな私が夜行列車で向かうのは信州のとある高原。
 私は昔っからこの高原に年に数度かよっているの。
 「恋人」のかわりに私を受け止めてくれる大自然に包まれるために。

 『6月の平日、乗客は少なくて1号車の自由席にはほんの十数人がいるだけ。
 その中で目立っていたのが私とその前にいるカップル。
 その他は会社の出張のおじさんばかり。
 列車の中で「いい男がいれば」なんて考え、私が甘かった。
 都会の中を通りすぎ高尾を出るともうあたりは山の中。
 その時にはおじさん連中はもうぐっすり。
 私も軽く目をつぶろうかな、なんて思った時、前のカップルの男の子が突然私のところにやってきたの。
 「なにか?」と私が聞くと
 「すみません。彼女が指を切ってしまったものですから、あったらバンソウコウいただけないでしょうか?」
 と小さな声で頭を下げて申し訳なさそうに言うの。
 私、ハイキングの時よく葉っぱなんかで傷つくるからたくさんもってる。
 バックの脇から何枚か取り出してあげると、照れくさそうに笑ってた。
 彼女が小型ナイフでリンゴをむいてたら、手が滑って切ったみたいだった。
 で、自分達はすっかりバンソウコウなんて忘れてきちゃたみたい。
 私も一人暮らしはじめた頃よくやったのよね。
 「わかるわかる」なんて軽く挨拶して自分の席に戻ったの。
 「私にもあんなに気遣ってくれる人がいたらな。」
 たま粋交じりで窓の外を見ると、そこには自分の顔が映ってた。
 それから何時間か、列車は順調にはしってた。
 そうしたらなんだか二人の声が少しだけ聞こえてきたの。
 さっきまでは静かな社内には何一つ聞こえなくて、レールの音だけが響いてた。
 気になって聞き耳を立てると、なんだか言い争ってるみたい。
 松本が近づくにつれてその声はだんだんと大きくなってくる。
 ちょっと洗面所に行きたくなって二人の横を通ると、やっぱり何か言い争ってる。
 洗面所から出ると、ちょうど松本に到着したの。
 ジュースが飲みたくなっててホームに出て自販機で紅茶を買って、近くのベンチに腰を下ろしたの。
 夜風にあたりながら紅茶を飲んでいると、さっきの彼女が荷物を持って出てきた。
 口出さない方がいいかな、なんて考えたんだけどやっぱり性格で声をかけずに入られなかった。
 「ねえ、どうしたの?」って聞くと、
 「あなたには関係の無いことです!」ってだいぶ荒い口調で返事が返ってきた。
 「ねえ、ちょっと落ち着いて! どうしたの? 関係ある、無いじゃないでしょ、ね」
 ホームのベンチに座らせて話を何とか聞くと、内容は至って簡単。
 彼のカメラバックを彼女が思いっきり蹴っ飛ばしてレンズを一つ破損。それに腹を立てた彼が彼女を責め、彼女も言い返したと……ごくありがちなパターン。
 「おせっかいだなぁ、私も」なんて思いながら彼女をなだめると「たかがレンズ一つで何よ!」なんて具合でどうにもおさまらない感じ。
 松本駅での停車時間は約20分
 何とかしようといろいろと手をつくしてみるものの、どうしても彼女は私の声を聞きいれなくて、ついには私まで頭に来て
 「じゃあ、彼は私がもらうわ。彼ってなかなか素敵だしね」
 ってもうどうにでもなれって口からでまかせ。
 そしたら彼女、やっぱり純なのね。まだ20になってないんだもん。
 「えっ……そ、それはちょっと……困ります」なんて、さっきまでの勢いはどこ行ったの? って感じ。
 発車のベルが鳴って、私は彼女を無理に列車の中に引っ張り込んだの。
 すっかりおとなしくなって、彼の前にきたら何も言えなくなってた。
 彼の方も「ゴメン、さっきは……」なんてまったく、ご馳走さま。
 「レンズは?」と彼女、「いいんだこんなもん」と彼。
 ちらっと見るとレンズは20万近くする超高級品。思わず「20万ぐらいする……」って声に出てた……
 その声に彼女も彼の怒るわけを理解したし、彼も値段のことを一言も言わないなんて、彼女のこと結構本気みたい。
 まあ、良かった良かったってところです。
 その後二人は大町で降りてアルペンルートを行くそうで、楽しいたびになるといいですね。
 私もああなれればなぁ……今回は他人の幸せで我慢我慢。
 なんだか今日も元気良く行けそうです。では、また!』

 パタッと私は小さなノートを閉じると視線を上へとうつしたの。
 ここには雄大なアルプスの山々。そしてあちらこちらに咲くかわいい花。
 「恋人欲しい」って小さなため息をつくけれど、すぐに山を見上げて思い直す。
 今、私は大自然に抱かれてもう十分。今は何もいらないって。
 草を踏みしめて立ち上がると大きく背伸びをした。
 そこで私はハッと気づいて日記をもう一度開けてペンをとったの。
 これを書き忘れちゃいけない。大切なことですもの。

 『P.S. 私は今、恋人募集中です!!』


   一言あとがき
 女性のことは難しいねぇ……

   HPあとがき
 今思ってもこの作品は過去最低の文章だという気がします。
 もちろん他の文章がいいって訳じゃなくて……
 この文章を書いた時は、何か物語を無性に書きたくなってほとんどアイデアも無く書き始めた記憶があります。
 だから文章的にはもう日本語になってない。
 これはひどい。まるで小学生の文章以下……
 でも、何とか完成させて過去の作品集に残ることになりました。
 今思えば、残さなかった方が良かったかもしれないと思ってます。
 物語の主人公の中里菜津美さんには申し訳ないことをしてしまった。
 謝っておきます。ごめんなさいm(_^_)m(笑)
 


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