MINI STORY
    RAILWAY MINI STORY
    車内創作第1弾

     『 MOON LIGHT EXPRESS 』
                             草野  中 原案
                             池馬 白栂 著


 闇を抜けて列車は走る。北へ向けて……
 俺は負けたのか? あの大都会に……
 故郷に向かう座席急行列車の片隅でふと考える。
 甘かったのかもしれない、行けば何とかなるなんて。
 田舎の連中は俺を引き止めた。
 しかし俺はそれを無視して希望だけを持ち故郷を後にした。
 いまさら悔やんでも遅い。
 もう去ってしまった時間は戻らないのだから。
 それより今はどうやって田舎の連中に顔向けしようかという方が重要だ。
 忠告を無視して飛び出したのだ。
 何を言われようと文句は言えない。
 それより陰口を叩かれるのが一番辛い。
 でも今は帰れる所はただ一つ、自分の生まれた故郷なのだ。
 「帰ったらどう言おうか」
 そればかりを考えながら暗闇を見つめる。
 答えのでないまま列車は駅へ滑り込んだ。
 ただなんとなくホームへと足をつける。
 停車時間は多少ある。
 コーヒーを一本買い、飲みながらなんとなく列車をみる。
 前へ前へと歩きながらふと思う。
 昔はこの急行列車も優等列車として光を浴びていた頃があったのだ。
 そして他にもたくさんの夜行急行が走っていたことも。
 空には月が光っている。
   その光に照らされて赤茶けた電気機関車と傷だらけの青い客車がたたずんでいる。
 昔の栄華の欠片も見えない姿だ。
 まるで今の俺と同じようだ……
 でも、まてよ。
 いくらの栄華の欠片も見えなくなっても、この列車は立派に働いている。
 そして何よりこの列車はまたあの大都会へと戻っていくのだ。
 今までの俺は自分で負けたと思い込んだまま何もせずにいた。
 あがきもせず、すべてを大都会のせいにしていた。
 もしかしたらこの列車のように俺のことを必要としてくれている人がいるかもしれない。
 月に浮かんだ列車は俺の心を変えさせた。
 ほんの小さな事だったが、列車は俺に大きなものを教えてくれた。
 それから俺は故郷に戻り、今までのことをすべて親にぶちまけた。
 別に嘘をついた所でわかるわけはなかったのだが、何故か嘘をつく気はまったく無かった。
 今まで反対していた親もなにを責めることもしなかった。
 逆に生活費として資金援助もしてくれた。
 しかしその金は本当に何かがあった時だけに使うことにして、俺はまた夜行急行で東京へと戻っていった。
 そして……今。
 「どうしたの? 窓の外なんてじっと見たりして?」
 自分の美しい、というか愛らしい新妻に聞かれる。
 「いや、なに。昔のことを思い出していたのさ」
 と俺はやさしく答えを返す。
 あの時から2年が過ぎた……あの後すぐにある会社へと入社した。
 そこで自分を必要とする人を見つけ、ついこの前、俺たちは結婚した。
 まだ収入は十分とはいえないが、前に戻った時にもらった親からの援助資金に手をつけるようなことにはなりそうも無い。
 「昔のことって? 聞かせてよ。 ねぇ。 この新婚旅行と関係あるんでしょう?」
 彼女の言う通り、今俺たちが乗っているのは2年前と同じ列車なのだから……
 「聞かせてよ、ね」
 そうなんだ。あの時、列車が教えてくれなければ彼女と会うこともなく、田舎で小さくなって暮らしていただろう。
 「2年くらい前……そう、まだ会社へはいる前……」
 俺はゆっくりと口を開いた。
 彼女も黙って聞いている。
 「この列車で……」
 空には月があの日と同じように光っている。
 この夜行急行の夜は長い。
 俺は一つずつ丁寧に語りはじめた……




   あとがき
 今回は列車の中で書いているために字が汚くて申し訳ない。
 この物語は列車を舞台として一人の男の物語を書いたつもりである。
 果たしてうまくいったかどうかは読者たちに判断して欲しい。
 というようなわけで、またいつか……
                               夢旅人 池馬 白栂

   HPあとがき
 この作品から地方に旅行に出かけた時にもルースリーフを携帯し、その場所で書くという行為をするようになった。
 いってみればこの作品が「地方創作物第一弾」なのかもしれない。
 旅に出ている時には心がとても素直になれる気がして、無性にペンをとりたくなる。
 それで作品が書けるかどうかはまた別の話になるのだが……
 とにかく旅の空間というのは、特に一人であると、その雰囲気に独特のものを感じて何かが体の中から生まれてくる感じがする。
 それをそのままペンにぶつけるとこんな作品になるのかもしれない。
 これから旅行にいくたびにルースリーフを持ち歩くようになった。
 また私の旅行用荷物か増える原因になった記念すべき作品である(笑)


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