北海道旅行記2008
5日目 十勝岳温泉〜狩勝峠〜幸福〜帯広〜忠類
2008.9
遮光カーテンの脇から光が漏れ始めている。
今日も良い天気のようだ。
軽く顔を洗って早速風呂へ向かう。
時間は7時。
すでに他のお客さん達は朝食へ向かっている。
旅先での朝風呂は本当に気持ちが良い。
空は朝の清々しさを引き立てるように快晴。
鳥達の囀りが山々に響く。
ほてった身体を冷やす風が吹き抜ける。
最高の露天風呂環境は長居させるのに充分であった。

風呂から出るとそのまま朝食会場へ向かう。
すでにほとんどのお客さんは食べたあとらしい。
係の人がテキパキと片付けていた。
朝食はビッフェ方式であるが、並んでいる食材はなるべく地元のものを使おうという気持ちが現れていた。
この傾向は北海道各地に見られるような気がする。
個人的には良い事だと思う。
メインの皿を1回お代わりしてたっぷりとした朝食を終えた。
部屋に帰り荷物を整理し、2回にわけて車に運んだ。
テレビなど見ながらゆっくりと支度をし過ぎたのか、チェックアウトする時には9時半を回っていた。
今日は十勝に向かうつもりである。
これまで何度か北海道へ足を踏み入れているが十勝だけは行ったことがない。
まずは山道をゆっくりと降り、富良野の町に入る。
今日最初の観光はお約束とも言える富田ファーム。
到着したときにはすでに観光客で大混雑していた。
天気もよく、秋の花達が鮮やかな色で迎えてくれる。
この時間にいる観光客のほとんどがアジア系の外国の方達である。

自家用車よりバスが多いのはこういったアジアの旅行者が圧倒的に多いからであろう。
園内を軽く一回りし、一休みついでにシュークリームを一つ食す。
今回の旅はつまみ食いばかりな気もする。
一休みを終えて本格的に十勝に向かうことになる。
とりあえずは線路と平行する道を走り南へ向かう。
しばらく走ったところで少しだけ寄り道。
スキー場を花壇にしたような場所「ラベンダー園」に立ち寄った。
ラベンダーは時期はずれなので咲いてはいないが、他の花が競うように咲き誇っている。
今度こそ十勝に向けて出発した。

ちょうど来たノロッコ号と平走し国道38号線に突き当たる。
あとはひたすらこの国道を走れば、そこは十勝である。
まずは川沿いに山の間をゆったりと走っていく。
のどかな風景が右に左にと展開していく。
そのうちに両側の山がじわじわと迫りはじめ、道は山の間へと滑り込む。
山越えの前準備といったところか。
しばらくして走ってきた国道を右折してしばしのお別れとなる。
このまままっすぐ行っても良いのだが、一つ南にも川沿いの道があるらしい。
国道が飽きてきたのもあり道を変えて進むことにした。
こちらの道も国道だが、先ほどの道よりは少し古い感じの道である。
ただ車も少なく、自分のペースで走ることが出来るのは楽だ。
夕張方面へ向かってしばらく走り、今度は左折する。
ここからの道は少々カーブが多い。
途中、休憩ついでに金山ダムを見下ろす展望台に立ち寄った。
今はそれほど美しい景色ではなかったが、紅葉の季節になれば美しいのだろう。
ライダーには楽しそうなワインディングが続くが4輪の運転にはかなり集中せざるをえない道である。
金山湖を過ぎてしばらく走ると幾寅の町に入った。
ここで再び富良野からの国道と合流する。
ここにはちょっと変わった観光スポットがある。
幾寅駅だ。
この駅で撮影された映画がある。
「鉄道員(ぽっぽや)」
その時使われたオープンセットが駅前に残っており、また駅舎内も簡単な資料館に改装されていた。
ホームに上がってみると確かに雰囲気がある。
ここを舞台にした理由も解る気がした。
駅前のオープンセットに入ることは出来ないが、撮影に使われた本物のディーゼルカーが半分に切断されて展示してあった。
それほど古い車両ではなかったはずだが、古めかしい感じに改造されたためか傷みが酷かったらしい。
整備に手間がかかるので廃車になったという噂を聞いたことがある。
だとしたら少々かわいそうな車両だ。
中に入る事も出来るよう階段がつけてある。
中を覗いてみたが、ごく普通のディーゼルカーであった。
20分程で見学を終えて出発する。
ここからは比較的広い道が峠に向かってぐんぐんと登っていく。
カーブが緩いので余り苦には感じないが、少しアクセルを踏み込まなければすぐにスピードが落ちる。
そのままの勢いで頂上に達した所が狩勝峠となる。

峠にトンネルを掘らないで登りきるので景色はかなり良い。
早速展望台へとあがった。
すこし霞みがかっているが、今までの山とは違う平らな土地が目の前に広がっている。
まさに「大地!」といった雰囲気を感じさせる。
これで天気が良ければかなり遠くまで見られるのであろう。
少し強めの風に吹かれるが今日も気温が高いので寒さは感じない。
どのあたりまで見えているのかわからないが、遠くには町のような影も見えた。
ここは間違いなく北海道でも有数の景勝地であろう。
「雄大」という言葉がぴったりな狩勝峠で20分ほど過ごした後は、この峠を一気に下る。
重要な国道であるためか、道の改良っぷりがすごい。
ゆるいカーブがひたすら続くのだが、道幅が広くかなりのスピードで降りれてしまう。
大型のトラックもいいスピードで降りて行く。
下手をすれば軽く100km/hを超えてしまいそうなスピードになる。
それでも問題ないくらいの広さとカーブ半径なのだ。
覆面の取り締まりが多そうな道である。
そんな中を臆病にたらたらと下り、一気に新得の街へと降りてきた。
もうここは十勝平野である。
実は少々気になっている場所がこのあたりにある。
「元列車ホテル」と「狩勝実験線」である。
小さい頃に見た図鑑か何かに乗っていたのだが、廃車のブルートレインを使った列車ホテルがあったはずなのだ。
かなり前に営業は終わっているとは聞いていたが、子供心に刻まれた思いは強い。
「狩勝実験線」は勾配緩和の路線付替えで廃止になった線路を利用して火災や脱線の実験を行っていたという記録を見たことがある。
ともにこのあたりのはずなのである。
新得駅の観光案内所で聞いてみると、わからないらしい。
町ではあまり関心が無いらしい。
すると奥から別の人が出てきて「ボランティアで廃線を観光地にしようとしている人がいる」と一枚のチラシを持って来てくれた。
ついでに食事の場所を聞くと少し戻ったところにに蕎麦の店があるらしい。
そういえばあったような……と思い再び車に乗り込んだ。

新得は蕎麦の名産地らしい。
確かにあちらこちらに蕎麦の看板を見かける。
それなりに広い駐車場を持つ『そばの館』へと車を止めた。
すでに時間はお昼を大きく回っていたが、店の中はなかなか繁盛している。
新得のそばを使ったシンプルな一品を頼む。
少々時間がかかって出てきた蕎麦は思いのほか美味しかった。
そのせいもあるが、なぜだか蕎麦は急いで食べてしまう。
おかげで蕎麦が来てからの食事時間は待っている時間よりずっと短かった。
蕎麦を食べ終え、車に戻って先ほどのチラシを見る。
すると旧線はこの蕎麦屋の脇を通っていたらしい事に気がついた。
言われてみれば確かに防風林のようにまっすぐに木が並んで生えている。
おそらくその場所が線路のあった場所であろう。
少しだけ痕跡を見つけて元気が出てきた。

チラシを頼りに旧線にあった駅を探しにいく。
快適な道路のどこから道が分かれるのかがわからず、登っているうちに行き過ぎた事に気がついた。
慌てて戻り、交差点を右折する。
その交差点はサホロリゾートの一部施設の入口に見え、まさかと思って曲がらなかった所である。
ただしばらく行くと「トロッコ」の看板がおいてある。
おそらくそこに元の駅があるのだろう。
そこから数分行かないうちに砂利の駐車場が見えてきた。
そしてその脇には蒸気機関車と古いブルートレインが傾き始めた陽に照らされていた。
このブルートレインが元の列車ホテルのようだ。
列車の向こうにはホームが見え、待合室らしき建物も残っていた。
ここも現地のNPO法人が自転車タイプのトロッコを数百メートル運航していた。
また、その先の廃線後も遊歩道として整備しているらしい。
点検に行くといって係員らしいひとが足漕ぎトロッコにのり、林の向こうへ消えていく。
もともと急勾配の途中にあった駅は行き違い等の関係でかなり多くの鉄道関係者がここで働いていたようだ。
その名残が近くの建物等に残っていた。
機関車は9600型と呼ばれるかなりがっしりとしたタイプの機関車で、整備しているのか色もしっかりとした黒であった。
それとは対照的に昔宿泊施設だった客車のほうは所々ペンキが剥がれ痛々しい姿をしているものもあった。
比較的綺麗な客車もあったことから、おそらくは順々に塗装し直しているのだろう。
暫くは訪れる人も少なくなってしまった駅と客車を見ていた。
もう少し賑わっている所を想像していた私には、その景色は余計に寂しく見えた。

今日も夕方が近づいてきた。
すっかり西日になった太陽が車内に差し込む。
日が暮れるまでの時間は多くはない。
時間を少しでも稼ごうと高速に乗る。
十勝清水から帯広を目指す。
意外にも車が多く、少々詰まりながら進んでいく。
帯広の手前で右に分岐し、日高道へと進む。
この道は高速として作られてはいるものの今は無料開放中。
あまり車も走っておらず必要あるのかがかなり疑問であった。
ただ止まる事なく走れるのは素晴らしい。
帯広空港に程近い幸福インターで降りる。
そこからほんの少し走るとすっかり観光地になった幸福駅跡に到着した。
すでに夕日があたりを照らしているというのに、まだまだ観光客はたくさんいる。
駅は古い板張りのホームと小さな駅舎、2両の赤いディーゼルカーがあった。
さらに駅前にはお土産を売る店が数件残っている。
駅舎もお土産屋もかなり古く現役時代からのものであろう。
今はこのお土産やさんで記念の切符を売っていた。
景色が赤く染まっていく。
その光はディーゼルカーの中にも差し込み、昔ながらの車内を照らし出している。
まだこの広尾線が現役だった頃に大変なブームを巻き起こしたこの駅は、訪れる人の多さでは今でもまだ現役の駅であると言えるかもしれない。

夕暮れ近づく幸福駅を後にして次に向かったのは愛国駅である。
当時は「幸福から愛国へ」という切符が馬鹿売れしたようだ。
幸福駅からは帯広方面へ戻る形になる。
向かっている間に太陽は日高山脈の向こうへと姿を隠した。
到着した愛国駅の回りは多くの家が立ち並んでおり、幸福駅とは違い町の中にあった。
すでに陽は暮れ、見学する人もいない。
また、駅はちょうど整備中で、小さなショベルカーがホームの一部で動いていた。
おかげでホームから展示してある蒸気機関車を見ることができない。
仕方なく線路側からの見学になったが、蒸気機関車はこちらから見上げたほうが迫力があるように思う。
ここで今日の観光は終わりである。
残すは風呂と食事である。
今夜は車で寝るつもりでいるので、なんとしてもこの二つは逃したくない。
まずはお風呂に入ることを目指す。
この帯広あたりで有名なのは十勝川温泉である。
なんとも珍しい植物性のモール温泉と呼ばれるもので、なかなか興味がひかれる。
携帯で調べてみると複数の宿で立ち寄り湯をやっているらしい。
何箇所かピックアップして十勝川温泉へと向かった。
すでに辺りは真っ暗であり、完全に夜になっている。
おかげでいまいち立ち寄り湯がどこなのかわからない。
真っ暗な道を十勝川温泉へと走る。
カーナビで示す位置はそろそろ温泉地のはずである。
あまりにも良いスピードで車が流れて行くので、このままでは行き過ぎる可能性もある。
うしろの車をやり過ごす為に脇道へと一度入った。
あらためて地図を見直すと、ちょうど「かんぽの宿十勝川」の裏であった。
しかも立ち寄り湯の看板も出ている。
ならばここで、ということで早速支度をしてフロントに向かった。
フロントでの対応も良く、気持ち良い気分でお風呂に向かう。
中に入ってみると風呂自体も雰囲気も良い。
特に露天風呂は気持ちが良く、いくらでも長湯できそうな感じがする。
お湯は今までに経験したことがないお湯である。
色は薄い茶色で、薬草風呂のような匂いがする。
肌触りは柔らかく、肌がすべすべになる。
ゆっくりと1時間ほど浸かり、さっぱりとして車に戻った。
次は食事である。
調べてみると意外にもどこも営業終了時間が早い。
ちょうど19時ぐらいであるが、食堂系のお店はほとんど終わってしまっている。
残りは飲み屋ぐらいである。
それでもなんとか20時までやっている豚丼屋を雑誌内に見つけた。
あまり時間はない。
場所は帯広駅付近。
ラストオーダーを考えるとぎりぎりかと思う。
正確な地図も無かったが、なんとか迷わずに辿りつけた。
店の名前は「鴨川」
決して綺麗とは言いがたく、雑誌に紹介されていなければ観光客はまず入らない感じである。
時間は19時半。
まだ暖簾がかかっていた。
店は小上がりが2つとカウンターだけの小さなものである。
しかもメニューは豚丼、味噌豚丼、カツ丼の3つのみ。
しかも今日はカツ丼は出来ない旨の貼紙が貼られていた。
さらに2名の場合は同じメニューにするようにとの貼紙もある。
なんとも店の勝手さが目立つ貼紙ばかりだ。
とは言え夫婦二人でやっているような小さな店では味の違う豚を同時には焼けない等の理由があるのだろう。
まぁ食べたいのは味噌豚丼であるし、私には何ら問題はなかったのだが。
注文をしたあたりで前にいた若い二人の男女のお客さんが帰っていく。
と同時に店の人が暖簾を下げた。
本当に閉店ぎりぎりで飛び込んだ客になってしまった。
暫くは店のテレビを見て待つ。
カウンター越しにジュージューと肉のやける良い匂いがする。
すると、ほどなく丼と味噌汁が目の前に現れた。
丼の上に乗った豚は飴色に輝き甘い香りを振り撒く。
ちょんと乗ったおろし生姜をまぶして早速口に頬張る。
肉の柔らかさと味噌の甘みとばしさが広がり大変美味であった。
いつもなら食後はゆっくりしたいのだが、この時間では微妙に居心地が悪い。
食べたあとはさっさと店を後にする。
決して愛想の良い店ではなかったが、味に関してはそれを充分補うものがある。
まぁ愛想が無かったのは私が閉店間際に飛び込んだせいなのかもしれないが。
風呂、食事を終え、残りは泊まる所を探すのみとなった。
今回も道の駅を目標に車を向かわせる。
明日は十勝から襟裳岬に向かうつもりなので、先程来た道をまた戻ることになる。
この道には何箇所か道の駅があり、トイレ次第で泊まる所を決めようと考えていた。
途中から再び無料開放区間の高速に乗り、幸福駅の脇を通過する。
ここからさらに南へと向かって走ると『道の駅 忠類』が見えて来た。
21時に近い時間である。
当然だが、併設の店は閉店している。
幸いなことにトイレは比較的綺麗であった。
今日はここに泊まることにする。
早速後部座席を倒して寝る準備を始めた。
さすがに長い時間運転していたので疲れた。
近くのスーパーの明かりは夜も消えなかったが、それさえも気にならずあっという間に眠りに落ちていった。