北海道旅行記2008
7日目 十勝川〜糠平〜西春別
2008.9
遮光カーテンの隙間から覗く光で目が覚めた。
時間は7時近い。
早めに寝た割にはかなり遅い起床である。
目覚ましついでに朝風呂へ行く。
旅も終盤に入り、行けるところも決まってきた。
今日は薄霞があるものの、気持ち良く晴れている。
少し寂しく思いながら今日の予定を考えていた。
朝食はいたって普通のブッフェ方式。
とはいえ細かい所に地元産の食材を出す等、気を使っているのが見える。
私的にはかなり好印象の宿である。
ここでもたっぷりと食事を取り、部屋で一息ついてから出発する。
まず向かったのは地元の運動公園。
宿で貰ったパンフレットに何やら面白い施設がのっていたのだ。
白いドーム状の形をいつくもくっつけたトランポリンのような形。
子供心がうずく。
まだ朝早い運動公園にはちらほらと散歩している人しか見受けられない。
園内を歩き、見えてきたのは予想より大きなものだった。
山のようにいくつかのてっぺんを持ち、乗ってみるとふわふわと弾む。
思い切り飛んで見たい気もしたが、人目を気にしているうちに幼稚園の団体が来てしまった。
さすがにその中に混じって遊ぶことも出来ず次に移動することにした。
次に向かった場所もすぐそばである。
ちょうど十勝川温泉の裏山にあたるような場所である。
温泉街の端から一気に登り一気に高さを稼ぐ。
少し視界が開けたな、と思った場所こそが展望台であった。
十勝平野を望む展望台、ということだったが霞んでいるためそう遠くまでは見ることが出来ない。
とはいえ下に十勝川を臨み、青く晴れた空を見渡すこの場所はとても気持ちが良い。
しばらくは朝の空気と共に景色を楽しんだ。
さて、次に向かおう。
次は少々遠くなる。
向かうのはナイタイ高原である。
北海道を走るライダー達には有名な場所であろう。
主要道から一本ずれた道を北に向かう。
日差しは暖かく、ドライブ日和である。
十勝平野の北の端が目の前にだんだんと迫ってくる。
士幌町を越え、ナイタイ高原への道に入ると車は一気に減る。
基本的にこの時間では観光の車やバイクしかいないようだ。
牧場の間を抜けてきた道を左に曲がると、そこからは気持ちの良い登り坂が始まる。
坂自体はかなり急なのだが、大きな弧を描くように道が作られており、かなり気持ち良く走ることができる。

それにぐんぐんと登るので視界が一気に開け、雄大な十勝平野を一望することができるのである。
途中で一度車を止め、外に出てみた。
朝よりかなり雲が出てしまっているのが残念だ。
風も強く少し肌寒い。
そのかわりに雲の流れは早く、タイミング次第では太陽の恩恵を受けることができた。
高原の道の行き止まりは、まさに天上の楽園のように大地を見下ろす位置にあった。

裾野へと広がる丘には牧草が生え、見事な緑の大地を作っている。
その大地に雲の影が流れ、まるで写真のような景色が広がっていた。
カメラを構えながら近辺をウロウロと歩く。
秋、ということもあるのか人は少ない。
広い駐車場もガラガラである。
牧場に来たのだからと、ログハウス風の店に入りソフトクリームを食べる。
濃厚で期待通りの味であった。
満喫したところで次に向かったのは、どうしても行きたかった場所である。
高原から下りた観光客とは逆方向に曲がり、大雪方向へ進む。
山々が迫り、しばらくすれば川に沿って道は行く。
峠の下をトンネルで抜けて到着した町は糠平である。
ここにも廃線の跡がある。
道から逸れて元の糠平駅を訪ねた。
ここも史料館になっているのだが、残念ながら今日は月曜日。
見事に休館日であった。
確か廃線時にはこの駅が終点だと思ったのだが、駅の敷地も狭いし町からも少し外れている。
随分と変な所に駅を作ったな、という印象である。
結構立派な史料館を後に目的地へともう少し北進する。
山間の道とは思えないほど整備された道は、微妙に色づいた木々の間を抜けて行く。
糠平湖を通りすぎたあたりから、目的地へ向かう分岐の目印を目を凝らしつつ進む。
ちょうど脇道から車が出て来るのが見えた。
どうやらそこが曲がるポイントらしい。
快適な道から一転、細いダート道が始まる。
対向車とは場所を選ばなければすれ違えない。
しかも路肩は実に頼りない。
多少の高低差もあり、決して道の状態は良くない。
バイクで来る人ともすれ違ったがダートを走るバイクではなく、かなり大変そうである。
高低差がおさまると意外にも快適な砂利道になった。
入口付近より奥のほうが快適とは不思議な道である。

道が平坦になり、ゆるやかなカーブになった先に少し路肩が広くなっている場所があった。
ここに車を止め、あとは森の中の一直線の道を歩いていく。
ちょうどマイクロバスの方達と一緒になったので、かなり賑やかだ。
いつもは静かな場所であることは間違いない。
緩い下り坂を進むと、突然視界が開けその先に湖が光っていた。
今歩いてきた道のまっすぐ先には、その湖面を跨ぐように白い橋がある。
タウシュベツ橋梁。
それがこの橋の名前である。
国鉄白糠線が開通した時に使われていたコンクリート製の橋梁であった。
元々は谷を跨ぐようにかけられた橋であったが、目の前に広がる糠平湖を作ったダム工事により廃線となった。
そして以来湖面が低くなると顔を出し満水なると見えなくなる、を繰り返している。
その白いコンクリート橋と湖のコントラストが美しく、様々なメディアで紹介され有名な橋となった。
潜る、出るを繰り返しているためかなりコンクリートは風化し、鉄筋が剥き出しになっている。
いつ崩れてもおかしくない状況なので橋の上の立入は禁止されていた。
多くの人と共に私もカメラを構える。
ここに来て空は晴れ上がり、湖は眩しいほどに光を反射する。
廃れ行くものの美しさ、というのだろうか。
得も言われぬ景色がそこにあった。
20分程いただろうか、最後のほうは写真も撮らずにただ橋だけを眺めていた。
強く吹いた風に冷たさを感じてその場所をあとにする。
満足の訪問である。
車で先程来た道を戻るときにふと気がついた。
途中から道が平になったのは、そこが廃線跡を流用した道だったことに。
道が険しくなっているのは廃線跡から外れて、後に作った林道だからであろう。
快適な道に戻り、再び来た道を戻り始めた。
ただししばらく走ってすぐに車を止めた。
来る時に気になる看板を見つけていたのだ。
道の脇に少し広い駐車場があり、そこに看板が立っていた。
トロッコ、という文字が手づくり感いっぱいの看板に書かれている。
とはいえ仁宇布のような大きな施設があるような場所はない。
駐車場から延びている遊歩道に入った所に答えはあった。
ミニ鉄道ぐらいの幅の木製レールが引かれ、そのうえにマウンテンバイクを改造した乗り物がのっている。
前輪は外され、代わりに人が跨いで乗る小さな椅子状のものがついている。
人の乗れるミニSLの客車の小さいものを想像してもらえればわかりやすいか。
これがレールに乗り、あらぬ方向へ走らないようなガイドの役目をしている。

簡単に乗り方と方向転換の説明を受け、タイミングが一緒になった60歳くらいのご夫婦と一緒に出発した。
手づくりな感じのレールの上をカタカタと音を立てながら進む。
もっとガタガタと振動がくるかと思ったが意外にも静かに進む。
最初の説明であったのだが、この線路の引いてあるこの場所も白糠線の廃線跡とのことである。
こちらは湖よりかなり高いところを通っているので、ダムが完成した後に通っていた線路跡なのであろう。
木々の間から優しく差し込む光が周りを照らす。
一部の木は紅葉を始めており、赤や黄色が太陽に輝いていた。
ゆっくりと下って行くと終点が見えて来た。
小さいながらも転車台が用意され、乗って来たトロッコを一台ずつ反対へ向ける。
行きは先行していたので、今度はご夫婦の後をついていく形になった。
今度は登りになるが、自転車のギアを軽い設定にしてあるので気にならない。
木漏れ日の間をのんびりと進み出発地点へ戻って来た。
仁宇布のトロッコほど長くはないが、エンジンの音に邪魔されず静かに森の間を進んで行けるのは良い。
予想以上に満足感のあるアトラクションである。
実は今日も泊まる場所が決めてある。
しかもここからはかなりの距離がある。
となればひたすら走るしかないわけであり、食事場所を探さずに先に進むことにする。
心許なくなった財布の中身を糠平の郵便局で補充し、あとはひたすら東へ向かう。
ナイタイ高原からの道を途中で折れ、足寄湖方面へ向かう。
小腹を昨日買った生キャラメルでごまかしつつ道の駅「足寄」へ到着した。
道の駅「足寄」は一般的な道の駅のイメージではなかった。
どちらかといえばチーズ工房の隣に駐車場があるだけといった雰囲気のものである。
2階で食事をするところもあったが、いまいち興味をそそられるものがない。
どうしようかと考えていると隣にも同じくらいの大きさの建物がある。
どうやらそちらは食堂メインのようで、そちらへ移動する。
中にはお客さんは誰も居らずしんとしていた。
少し大きめの声で「すみません」と声をかけると奥から店の人が出て来た。
どうやら営業中らしい。
水とメニューを置き、寒いでしょうとストーブを付けていった。
確かに少し冷えていたのでありがたい配慮である。
頼んだのは牛とろ丼と牛乳の刺身という少々変わったメニューである。
働いている人が少ないのか、後からきたお客さんが待たされ、私の頼んだ料理も出て来るまでしばらくかかった。
平日の15時近くでは致し方ないとも言える。
待っている間、私は店で売っている民芸品を見たりして時間をつぶしていたのであまり気にはならなかったが。
出て来た料理は少し不思議なものであった。
牛とろ丼は牛肉と脂を混ぜたそぼろ状のものが丼にのせてあるもので、雰囲気はネギトロ丼と同じである。
醤油をかけてたべるのも一緒だが、牛肉と脂はネギトロよりしっかりと味覚で返してくる感じがした。
もう一品がさらに不思議である。
牛乳の刺身、とは言うが要するにチーズらしい。
しかしこれも魚の刺身と同じくわさび醤油で食べるのである。
チーズと聞いたので「どうなんだろうか?」と思っていたが、食べてみるとあまり違和感がない。
チーズといっても色は真っ白で、特徴のあるチーズ独特の香りもほとんどない。
これがなかなか美味しい。
わさび醤油との相性もいい。
チーズにもこんな食べ方があるのはかなり新鮮な驚きだった。
独特の二品を食べ終わり道の駅を後にした。
あとはひたすら泊まる場所に向かうために走る。
足寄の町はなかなか大きく、至る所に松山千春の名前を見た。
ここからは阿寒湖への観光道路になるので少し車が増える。
特に大型バスの姿が一気に多くなった。
おそらくは阿寒湖畔の宿にでも向かっているのだろう。
しかし私の目的地はまだまだ先にある。
阿寒湖でも少し見ようか、とも思ったが少しだけ車を止められそうな場所がない。
駐車場はあるがほんの数分に500円も取られるのはしゃくであり通過する。
代わりに双湖台なる場所に立ち寄る。
しかし空は厚い雲に覆われ、パンケトー、ペンケトーの眺めもいまいちであった。
ここからは少し坂道がきつくなる。
特に下りに入るとヘアピンカーブが続き、ギアの入りの悪い車に苦労させられた。
道も先程までより細く、対向車は観光バスばかりといってもいいくらいだ。
慎重にヘアピンをクリアすると、今度はゆるい下りのまっすぐな道があらわれたりする。
ここで調子にのると、隠れている何かに赤い切符を渡されたりするわけだが。
山から降りてくると弟子屈の町に入る。
ここで南に進路を変えれば釧路であるが、今日の目的地はそこではない。
釧路へ行く道を右に分け、さらに東へと進む。
この辺りですっかり夜になった。
あっという間に100km近くなってしまうスピードを大型トラックで抑えながら走る。
1時間ほど走って今日の宿に到着した。
国道が交差する場所に作られた簡易的な宿。
というよりは入浴施設か。
「しまふくろう」今夜の宿の名前である。
昨年来た時に気に入って、今年もまた来て見たのだ。
すでに予約を入れていたので、すんなりと2階の部屋に入る。
そしてすぐに降りて来た。
まずは風呂である。
以前は部屋の風呂も温泉が入れられたらしいが、今は砂が出るので止めているとの事。
広めのユニットバスだったので少々残念である。
お湯は入るとつるっとする感じで気持ちが良い。
内風呂は少し熱めだったので、適度に温まったところで露天風呂に移動する。
牧草地の真ん中にあるような場所なので多少の田舎の香水的な匂いが流れてくる。
慣れない人にはあまりおすすめは出来ないかもしれない。
が、あまり気にならない人であればまことに気持ちがよい。
内風呂はかなり深いのだが、露天風呂は逆に浅目である。
とくに端のほうは寝転んでやっと肩まで浸かれるぐらいの浅さである。
お湯の温度も低めでいつまでも入っていられそうなお湯だ。
途中、学生の団体が入って来たことで洗い場待ちがあり、その分余計に長く湯に浸かることとなった。
いったん部屋に荷物を置き、再び1階へ戻る。
ただし手にはタオルをもったままである。
小上がりのような席について、テーブルの下へ足を突っ込む。
再び足は温かい湯に包まれた。
ここは去年も浸かった足湯レストランなのだ。
そして頼む料理も地元で作っている製品を使った「別海のこめちちホタテスバゲティ」である。
昨年食べてみて本当に美味しかったのであり、決して選ぶのが面倒になったわけではない。
足湯に浸かっているだけなのに身体がホカホカしてくる。
うっすらと汗をかいてきたところで頼んだものがドンと置かれた。
昨年も驚かされたが、やはり大きい。
皿の大きさだけではなく、実際の量もなかなかのものである。
いつもなら少しひくような量だが今夜はお腹がすいている。
がっつくように目の前のパスタと山盛りキャベツに向かった。
なるべくゆっくり食べるようには心掛けているつもりなのだが、お腹が減っているとどうしても早食いになってしまう。
昨年はなかなか苦労したスバゲティを今年は軽く食べ終えた。
とはいえ十分に満腹である。
足をしっかりと拭いて部屋に戻った。
満腹となれば次に来る欲求は決まっている。
それに抗う事なく私はベッドに潜りこんだ……